儀間派松濤館流空手道協会の沿革



儀間派松濤館空手道協会は、沖縄で生まれ育った空手道が近代空手の祖と言われる富名腰(船越)義珍師範によって大正11年に日本に広まり、その最初の有段者として認可された沖縄出身の当時の東京商大生(現在の一ツ橋大学)、儀間真謹師範が受け継いだ歴史的な経緯を原点としている。儀間真謹師範は熊本商業、前橋商業、山形商業、甲府商業等の教諭から高校長を経て鹿島建設(株)の参与として又、空手道発展の為に尽くされ沖縄空手道協会会長を経て、全日本空手道志誠会連合名誉会長、日本空手道連合会技術顧問、(財)全日本空手道連盟相談役のまま1988年に93歳の天与を全うされた。

生存中、武道評論家の藤原稜三先生と共著「近代空手道を語る」の著書を残している。儀間先生を慕う空手家が流会派を問わず、今日でも年令を超えて多いのは、人格者としての空手道精神を極めた儀間師範の人徳であろう。

 その門弟一同団結し先生の長き功績と松濤館流の久遠保存と普及発展の為に儀間派松濤館流空手道協会は、最高師範、樋口郁夫範士を中心として、東京地区、新潟地区、北海道地区、福井支部、カナダ地区、ドイツ支部、イギリス支部、ノルウエー支部と分布し斯道発展と体育文化向上の為に一層の努力をしています。
儀間派松濤館流空手道協会総本部は中野区上鷺宮4丁目に儀間派松濤館空手道場として歴史と伝統を築き上げている。
その理念は、武道空手と競技空手を両輪として、護身術空手、スポーツ空手、健康空手を取り入れながら、21世紀にふさわしい、誰でもが参加出来る空手道を目指した格調高い武道空手を指導している。



尚、現協会長及び協会最高師範は樋口郁夫九段範士が務められている。 








恩師儀間先生に思う

【 1984年4月20日 儀間真謹先生米寿記念誌 「 志誠 」より抜粋 】


全日本空手道志誠会連合 首席師範

(儀間派松濤館流空手道協会へ名称変更 1989年)

樋口 郁夫


私は、儀間真謹範士が六十歳を過ぎてからの直弟子で、先生が空手着を着て元気な姿で稽古を見ておられたのは、七十六歳くらいまでである。足の故障がなければもっと長く、第一線に出られたと思う。
高令であった為、組手指導は理論が多かったが、形に於いては、自ら手取り足取り古流の形、或いは松濤館系の型等を詳しく伝授して下さった。私自身非常に若い時代(明治大学生)であった為、血気盛んで、形に対する理解より、組手、特に実践組手(道場組手)が好きで、如何に敵を打ちのめし、倒すかに興味が湧き、その為には一挙必殺、一投足必殺の修練に時間を費やし、千本突き、千本蹴りは朝飯前であり、一万突きをやったこともあった。当時、先輩指導員に小林達也先輩がおり、この先生も厳しことは人一倍であり、妥協は許さなかった。

組手には剛柔流の東恩納盛男師範が担当し、剣のような突き蹴りで手抜き無しの迫力とギブ・アップするまで稽古は止めさせなかった。当時のような指導をうけたら、今の青少年は三日ともたずに止めてしまうであろう強烈なものであった。武道として、武術としての空手として、敵を十人〜十五人くらい相手にしても倒せる空手修練であったから強靭な体力と気力がないと落ちこぼれてしまうのである。そうした厳しさの中で儀間真謹先生の形の指導と精神訓話の時間は心を落着かせ、空手道修練を長続きさせる大きな起因になっているのである。多くの門下生の中でも一際、熱心な生徒であったのかどうかわからないが、指導員、師範と階段を上るにつれ、儀間先生は先生の全ての技術を私に伝授するのであった。「私の空手の全てを、樋口!お前に譲る」と明言して、ありとあらゆる形を伝授してくれたのである。冨名腰先生の投げ技も伝授下さった。いわば儀間空手、免許皆伝の第一号ではないかと思う。その為に、空手道を人生の糧にしようという決心がつき、青春時代から今日まで空手道を中心とした生活環境を考えながら、技術の研鑽、指導者としての自覚をもって多くの門弟育成に全力をあげているしだいである。先生が指導して下さった形の内、高度形である五十四歩は今日、私の最も得意とする形としていろいろの演武会等で披露しているが、先生の感謝の気持ちと、先生の長所を採り入れた部分がみられるところから、私は儀間派五十四歩として、後世に残すよう普及に努めている。

「冨名腰先生の投げ技」を儀間先生の相手役として全日本大会での模範演武も実になつかしいものとなったが、喜寿のお祝いの盛大さもまた、昨日の事のような気がする。そして又、米寿のお祝いが再び我々門下生の手で行えることを無上の喜びとするものである。私は、現在でも儀間先生の居られる鹿島建設の顧問社友室を年六、七回は訪問し、先生より素晴らしい教訓を受け、心の鍛錬に励んでいる。己の心に迷いのある時、先生の充実した人生観を聞き、再び明日への勇気と活力が湧き、人間の価値を訓えられるのである。これからも我々門下生が、世界に目が向けられるよう御指導、御鞭撻の程よろしくお願い申し上げます。先生の米寿の祝いをむかえて、心よりお喜び申し上げますと共に、御一家の御繁栄をお祈り申し上げるしだいでございます。